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by konlon

『ごきんじょ冒険隊』 ―日常に見えるファンタジー世界―

1995年前半は、阪神・淡路大震災から始まり、東京都地下鉄サリン事件とそれに続く形で展開したオウム真理教関連事件が報道され、人々を不安な心理にさせる事件が続いた。そんな状況下での6月、竹書房発行の4コマ&ショート作品系の雑誌『まんがくらぶ』において、ファンタジー・マンガ作家の須藤真澄作によるショートストーリー「ごきんじょ冒険隊」の連載が始まった(~'96年8月まで。全14話)。主人公の少女「まな」が自分の住んでいる町の中で体験する、不思議な出来事を優しく穏やかに、時に軽い笑いを交えながら描いたファンタジー作品であった。日常に出現する不思議だが心を和ませてくれるような優しさを持った非日常を子供の視点からとらえたこの作品は、'95年前半の暗く不安な雰囲気を和らげてくれるような作品であった。また、この「ごきんじょ冒険隊」は須藤真澄デザインのキャラクターを使った、パイオニアLDC製作のスーパーファミコン用ソフト発売とのタイアップ企画でもあった。SFCゲームの『ごきんじょ』は、猫の「ゆず」を連れた主人公のまな(幼稚園児)が、偶然出会った神様から町の平和を守ってほしいと頼まれ(*1)、お友達と「ごきんじょ冒険隊」を結成し、町を脅かす敵と戦う、という内容であった。ゲームはロールプレイング・ゲーム形式であるが、主人公を始めとする主要キャラを幼稚園児に設定して、彼女ら主人公チームのキャラクターを幼稚園での、月曜から土曜までの授業で(*2)育成することで、戦闘による"経験値"に頼らない、キャラの能力向上を実現している。それにより日曜日の冒険パートに入る前に、キャラクターの基本能力を半ば任意に設定する、セット・アップ的な効果も与えている。ゲームの冒険パートは、糸井重里プロデュースの『MOTHER』/『MOTHER2』のゲームシステムを参考にしているが、『MOTHER』シリーズの'50年代アメリカをイメージした世界観に対して'70~'80年代の日本小都市をモチーフにすることで、日常の中の非日常の世界にある種の土着感を付加することに成功している。冒険隊のメンバーとなる、柔道家の娘、お金持ち、天才少女、太っちょの泣き虫の愉快で個性豊かな面々や、敵キャラである、ワタベグループ総裁の娘で、意地悪な性格の「ななこ」が率いる「ななこ親衛隊」、「ななこメカ」といったキャラクター達が、主人公の住む町を舞台に所狭しと活躍し、やがて物語は冒険隊vsななこの対決から真の敵となる「悪意」の出現とその撃退へと移行していく。共通の敵である「悪意」の存在に気付き、町の人々を脅かすその「悪意」を打倒するため、ななこは改心し、冒険隊と行動を共にする。そして、主人公チームは最終目標となる「悪意」の本体との対決に向かう…。ゲーム画面のデザインは、ギャグマンガで見られるような絵柄でありながら、何か優しさのある、暖かな感じのする絵で描かれていて、日常に潜む冒険という、作品のテーマを引き立てていた。必要最小限で描かれたグラフィックの絵柄には、プレイヤー各自が自身の手によって、ソフト中の足りないと感じる所をプレイヤー自身の想像で補完する余地があり、その想像もプレイヤーの楽しみであった。また、物語は4月から始まり、全ての事件が解決した9月に終了するが(容量の関係もあったのであろうが)、それにより物語にゲームとしての軽い緊張感と緊迫感が与えられ、引き締まった展開になっている。『まんくら』連載版「ごきんじょ」は、須藤ならではの、優しさのあるタッチで描かれた、ギャグコメディーという感じであったが、そこには悪役との戦いは見られない(*3)。外の世界に抵抗を感じる主人公のまなは、自宅の玄関に現れた謎の回覧板に誘われて、飼い猫のゆずとともに町内を探索する。町内での不思議な体験を通じて、友達を作り、外の世界と触れ合っていく。主人公を町内の冒険に駆り立て、町の人々と触れ合っていくための鍵となる小道具として、回覧板を設定している所が面白い。町という住人たちの共同体において、住人間の交流関係をつなぎ合わせる役割を持つ回覧板は、「ごきんじょ」を象徴するものであり、まなの"友達探しの冒険"を体現するには最適の小道具であったといえるであろう。最終回でまなは回覧板と共に突然現れた子供にこれまで冒険した町を見せる。そして、最後に子供は回覧板を持ってまなの母親の胎内に入っていった。新たな家族としての兄弟/姉妹の誕生への期待を見せながら物語は幕を閉じる。回覧板による「ごきんじょ」冒険の終着点がまなの母親であったことは、人々の交流の原点が"家族"である事を再認識させてくれる。
「ごきんじょ」の単行本はゲームソフトとのタイアップ企画であったため、単行本化は難しいと思われたが、全一巻の単行本が97年6月下旬に竹書房より発売された。『ごきんじょ』単行本ではゲーム版の内容解説やマンガ版とゲーム版との違い等、ゲームソフトと関連した情報が巻末に発表された。(*4)『ごきんじょ』は、ゲーム版が同時期にリリースされた他ソフトと比べて、普及数は少数であり、単行本発売時には既に入手難になりつつあったにもかかわらず、巻末で紹介した事は、ゲーム版製作スタッフに対する敬意の表れであろう。また、ゲーム先行企画である事から来る、権利関係などの事項を解決処理して、単行本化してくれた竹書房の功績も評価されるべきであろう。単なるタイアップ企画として終わらせずに、マンガ作品とスーパーファミコンのゲームソフト作品との、互いの立場を尊重しながらも、須藤真澄の作品としての位置づけを重視してまとめられた、単行本の構成や意匠には、ファンを大切にする竹書房スタッフの思いが込められているように感じられる。これからも作家やその作品、読者を大切にした単行本を作っていただきたいものである。

                                                (文中敬称略)
      
作品:『ごきんじょ冒険隊』 1997年7月、竹書房


*1:RPG版のストーリー構成は、RPG版を監督した黒田洋介の手による。また、実際のゲーム上では、神様が主人公に町を守れと命じているような台詞は見られない。

*2:例えば「たいそう」を学習すると攻撃力のパラメータが、「おはなし」では知能のパラメータが上昇する。これらの組み合わせによって攻撃重視の実力行使型や説得による交渉型など、RPGパートにおける、戦闘での戦闘スタイルをキャラクターごとに設定することが可能である。

*3:作品終盤近くの12話で意地悪娘として、ななこ登場のエピソードがみられるが、ななこは次の回で改心する。まなの母が、今は亡きななこの母と同じ容姿であることに気付き、生き別れの姉妹であると亡妻/母を慕う渡部とななこに吹き込んだという展開になっている。

*4:単行本巻末のゲーム紹介の記事には、『まんくら』版のセルフ・パロディともいうべき、須藤自身によるマンガ形式でのゲーム版ストーリー紹介や、新聞記事形式での解説など、お遊びの部分が含まれているが、ゲーム版についての大体の情報を伝えている。『ごきんじょ』のゲームがあまり出回っていなかった事も関わっているのかもしれないが、マンガ版とゲーム版との関係を巻末で紹介した点は特筆すべきであろう。

追記:
 この『ごきんじょ』ではOPテーマのイメージ曲として、インボイスの「幸福が…」(シングル&アルバム『サイクルズ・オブ・ヒストリー』収録)を、EDテーマは高野寛の「Sunny Day Weekend」(アルバム『レイン・オア・シャイン』収録)を選曲してみた。 OPはこれから始まる冒険のワクワク感を感じさせる曲として、EDは冒険の後の爽やかさをイメージしている。
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by konlon | 2005-09-17 23:56 | マンガ