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by konlon

『エイリアン9』レビューEX2・『エイリアン9』の魅力を伝えたい!

『エイリアン9』の魅力を伝えたい!─対策係のいる世界─
                                ●空ドラ

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○『エイリアン9』の魅力とは?

 1998年に突如出現して読者に強烈な印象を与えた、富沢ひとし作のマンガ・『エイリアン9』は、近未来の小学校に設置された「エイリアン対策係」に所属する少女達を主役にしたストー
リーであり、「エイリアン」という異界の生物が日常の世界の中に進入している世界設定を採り入れている。そのことによって、人間自体の持つ常識観念が変革させられた、日常と非日常の入り混じった、どこか尋常ならざる世界というものが読者の関心を引き寄せ、彼らに何か言いようの無い印象を与えることとなった。『エイリアン9』(以後『A9』)ではキャラクター達の繰り広げるドラマが、異質のものが通常に見える、分かったようで分からない感覚を覚えるような世界において進行するため、読者の心には強烈な揺さぶりがかかり、不思議な感動となった。そして、その感動は、言葉では言い表すことのできない、何か凄くて素晴らしいものとなって、読者の心に残った。
 こうして、『A9』の魅力に惹かれた読者は、その魅力がどこから発せられるのかを追い求め、
『A9』の持つ”凄さ”や”素晴らしさ”を人々に伝えようとした。

○エイリアン対策係になりたい!

 マンガ作品・『A9』に秘められた、その”凄さ”や”素晴らしさ”を自分以外の人々に伝え
るための、的確な手段とは一体何か?『A9』のファン達は世界観の描写や、作画技法、現代思想の視点での解釈などから『A9』の魅力に迫ろうと試みた。『A9』の内容や構成要素を分析して、『A9』についての各自の解釈を打ち立て、それによって『A9』の”凄さ”や”素晴らしさ”を世間に伝えようとしたのである。ところが、何か物足りない印象がするのはなぜか。『A9』の持つ凄さや素晴らしさというものは、作品の内容や構成要素とは違った所にもあるらしい。それは無意識的な感覚としての、言葉では言い表せないものであり、言葉や文章で表現することが難し
い。こうした状況で、言葉や文章に代わって『A9』の魅力を伝えるべく、何人かの『A9』のファンたちは、『A9』の持つ”凄さ”や”素晴らしさ”を各自の表現に変換して、『A9』の魅力を伝えようとした。そして、ファンたちは、一つの表現手段として、彼ら独自の「エイリアン対策係」を創作したのである。それは、ファンたちが『A9』の世界に自ら入り込み、「エイリアン対策係」を彼らなりの解釈で模倣しようと試みることであった。ファンたちは『A9』の魅力を伝えるための究極の伝達手段を感覚的に考案したのであったともいえる。
 『A9』のヤングチャンピオン・コミックス版全三巻が揃った後の2000年頃から、いくつかの『A9』ファンサイト上でファン独自の「エイリアン対策係」が掲載されるようになり、それらはいつしか「ぱらきゅう」という通称で呼ばれるようになった。インターネットとホームページの普及によって、『A9』ファン達の意見発表や交流の場が提供されたことによって、ファン各自が創作した「エイリアン対策係」は、ネットワークを通じて不特定多数の人々に早く確実に発表することが容易になったのである。本家の『A9』が自由度の高い世界設定を持っている雰囲気を有していたことが、読者にエイリアン対策係の創作を可能にしたのだと思われる。『A9』の世界設定では「エイリアン対策係は第9小学校以外にも設置されている」ことになっている。つまり「本家『A9』のゆり、くみ、かすみの3人だけが対策係ではない」という設定であり、これによって、読者は作品世界へ容易に参入できるようになっているといえる。また、『A9』の主役達が、強大な超常能力をもって物語の世界を動かすというような存在ではないという点は、読者が物語世界の住人として『A9』の世界観を受け入れることが可能であると同時に、受け入れた『A9』の物語世界を自分なりに補完することを可能にしている。本家『A9』に登場するキャラターたちに対し、自分ならこうしたいというような思いを、ファンたちが創作した「エイリアン対策係」のメンバーに託すことができる余地が充分にあるのだともいえる。(共生型を含めて)エイリアンが気持ち悪いと言うような世界設定の中で見せる、『A9』のストーリーには、それを見た人に何らかの行動を起こさせるようなアクティブなパワーが秘められているのでないのかと推測されるのである。

○マンガ本来の面白さ

 私が『A9』を読んで、その異様な世界に関心を持った際、『マンガ地獄変』にて宇田川岳夫が紹介した、「トラウマ・マンガ」をはじめとする、80年代以前に発表されたマンガ作品と何か関連があるように思われた。(*1)古い時代に発表された「トラウマ・マンガ」と呼ばれるような、B級マンガ作品こそが『A9』を読み解く手掛かりになるのではないのかと私は考えた。
 これら古い時代のB級マンガを参考にして、『A9』に通じる所を探り出してみたところ、私は、『A9』における、エイリアン「ボウグ」の外見が作品のイメージを構成する要素がドリルのモチーフで統一されている点や、エイリアンが人間と”寄生”するのではなく”共生”するといった科学的に微妙なセンスを持った設定を重視している点が、60~70年代のB級マンガ作品に通じるのではないのかと考えた。マンガがまったくのB級文化だった時代に発表された作品群は、内田雄一郎(ロックミュージシャン)によるとアナーキーな、管理されていない世界であり、それらは音楽でいうところのインディーズに例えられ、(*2)作者の創造力が最大限に発揮された、言い換えれば作者の脳裏に浮かんだイメージが直接表出された作品であったという。古いB級マンガには自由奔放な面白さがあり、時には安っぽく、キッチュで、いい加減な内容を持つ場合があ
った。また、それらにはある種の毒々しさやいかがわしさを持つと同時に作品に巨大なパワーを与え、マンガ本来の面白さを形成していた。このような古いB級マンガを参考にして『A9』の内容を考えてみるに、『A9』は作者が自分自身の信じるイメージを直接的に描き出した作品であり、ゆえに巨大なパワーを持っているのではないであろうか。『A9』にはマンガ本来の面白さが込められており、読者に理屈ぬきで作品を純粋に味わう感覚を再び目覚めさせるような作品
であったといえるであろう。

○「偽史」的想像力

『A9』はマンガ本来の面白さを感じさせる作品であり、読者に何らかの行動を起こさせるアクティブなパワーを秘めていた。その自由奔放でアナーキーさを感じさせるイメージには、宇田川の言葉を借りれば、「偽史」的想像力を有しているのであろうと推測される。それは表現が受け手をも巻き込んで別世界を創造してしまうような開かれた想像力であり、それに関わる者全ての意識を変容させるほどの魅力を持っているという。宇田川によると、「偽史」とはありうべき過去や未来を捏造するために語られる物語であり、正史の狭間に入り込んで正史を相対化して、無限に増殖していく物語であるという。「偽史」は芸術の世界にも影響を及ぼし、文学等の芸術作品中に「偽史」的イメージが導入される。また、「偽史」的イメージは、支離滅裂である場合があり、受け手による補完の可能性を持っているのであるとも宇田川は主張した。(*3)
 『A9』は地球環境を一変させたらしい大異変によってエイリアンが出没した2010年代を舞台にした物語であり、そこには解き明かされることのない謎が物語中に秘められ、読者が手を加える余地のある物語設定を持っている。そのため、作品中に豊富な「偽史」的想像力を呼び起こしているといえるであろう。その「偽史」的想像力が『A9』の魅力であるとともに、ファンとなった者に「ぱらきゅう」を創作させる要因ではないのかと私は考えている。

(文中敬称略)



*1:宇田川によると、トラウマ・マンガとは、60年代から70年代にかけ
て発表されたマンガ作品の中で、作者の自己表出や妄想を具象化した作品群で
あり、読者にトラウマを引き起こさせるような作品である。徳南晴一郎の『人
間時計』に代表される貸本劇画末期頃の作品から始まって、ひばり書房刊行の
少女向けホラー作品、少年誌掲載作品上で展開された。しかし、マンガの目指
す方向は作者の自己表出よりも読者の欲望充足に変わっていき、編集・営業主
導のマンガ製作体制や表現の規制によって、80年代にはトラウマ・マンガは
姿を消したといわれている。                      
             
*2:『マンガ地獄変』植地毅、宇田川岳夫、吉田豪他著 1996年、水声

*3:『フリンジ・カルチャー』宇田川岳夫、1998年、水声社


参考文献
『マンガ地獄変』植地毅、宇田川岳夫、吉田豪他著 1996年、水声社
『マンガゾンビ』宇田川岳夫、1997年、太田出版
『フリンジ・カルチャー』宇田川岳夫、1998年、水声社
『とても変なまんが』唐沢俊一、2000年、早川書房
『まんがの逆襲』唐沢俊一編、1998年、光文社文庫

 
作品:『エイリアン9』   1巻 1999年3月 秋田書店
               2巻 1999年7月 同上
               3巻 1999年12月 同上

    『エイリアン9‐コンプリート‐』(三巻本を一冊にまとめて、
                     新ページを追加) 
                    2003年6月 秋田書店

    『エイリアン9‐エミュレイターズ‐』(『エイリアン9』の
                     続編シリーズ) 
                    2003年6月 秋田書店
            
                                  
                           

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後記:今回は、『エイリアン9』の魅力について考察してみました。古いマンガ作品を手掛かりに『A9』を読み解いてみましたが、その中で感じたことは、昔のマンガが持っていたマンガ本来の面白さを『A9』も持っているのであろうということです。それは、TVアニメ『機動戦士ガンダム』が大ブームになった'80年代初頭に発生した「MSV」(モビルスーツバリエーション、作品に登場するロボット系メカを、ファンたちが独自に解釈して作品を楽しんでいた)を想起させるものであったと思います。また、『A9』の凄さや素晴らしさの奥にある「偽史」的想像力については、『A9』を考える上で注目されるべき事項ではないでしょうか。
 『エイリアン9』のファンサイトについては、現在「エイリアン9プラネット」('09年10月16日閉鎖)のサイトで幾つかのファンページが登録されていますので、そちらを参照してみると良いでしょう。

                     2008.8.31 空ドラ

                                  空竜総合研究所 2008 禁無断転載
      
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by konlon | 2008-08-31 23:33 | マンガ