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エイリアン9レビュー2・『エイリアン9~エミュレイターズ~』

1998年6月に富沢ひとし作『エイリアン9』の連載が『ヤングチャンピオン』で始まって今年で10年目。『エイリアン9』誕生10周年記念特集第二弾として、『エイリアン9エミュレイターズ』についての記事を掲載します。



『エイリアン9~エミュレイターズ~』 ─夢の行方は─
               空ドラ

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○ナイン完結!そして… 
 1999年8月、『ヤングチャンピオン』において連載されていた富沢ひとし作『エイリアン9』は第30話で最終回を迎えた。そして1999年11月、単行本第三巻が発売され、『エイリアン9』(以後『A9』)という作品は”完結”した。単行本巻末に書き下ろされたイラストには、主役三人の役を”演じた”人物のコメントが添えられていた。『A9』は、架空の世界のドラマであり、巻末のペジに記された、架空の役者たちの感想によって、ドラマの終了が告げられ、読者たちは物語界の出口をくぐったのである。それは、『A9』という作品が一つの「物語」として”完結”したことを暗す るかのようであった。
 完結の余韻に浸っていたファンたちは、主役三人や作品世界の「その後」を想像し、インターネット上の『A9』ファンサイトや同人誌などの各種メディアにおいて展開させた。それは『A9』という物語が、作者の富沢ひとしの元を離れ、ファンの人々に受け継がれたことを示すかのような出来事であった。

○まさかの続編
 ところが、『A9』がビデオアニメーション作品として制作され、2001年6月~2002年2月にかけて全4巻が発売された頃から、マンガ『A9』をめぐる情況は、大幅に変化していった。第1巻発売に先駆け、2001年6月発行の『チャンピオンAIR』という特別編集誌において、富沢による、描き下ろし番外編マンガ作品が発表され、同年11月にはこれも特別編集誌である『ヤングチャンピオン・こんちは!』にも富沢自身の描き下ろし番外編が発表された。(*1)どちらも『A9』本編中の出来事を描いた作品で、アニメ版発売のためのタイアップ企画としての性格が強かった。そのような状況下で、『A9』の新作、それも本編の続編が発表されるらしいとの情報が、2002年3月あたりから伝わり始め、6月頃には、秋田書店から新マンガ雑誌が8月に創刊され、『A9』の続編がそこに掲載されるという情報が伝わった。同時に、富沢のHPにおいて、『A9』続編発表に関連した企画が始まり、『A9』続編に対するファンたちの期待と興奮は次第に高まっていった。そうした動きの中、新雑誌『チャンピオンRED』は8月19日に発売され、RED誌上で『A9』の続編『エイリアン9~エミュレイターズ~』(以後『エミュ』)の連載が始まった。

○相変わらずカッコ悪い!
 『エミュ』は、『A9』本編終了後、主役のゆり、くみ、かすみの三人が中学校に進学してからのストーリーであった。三人が進学した先の中学校にも宇宙船やエイリアンが出現し、対策係の先輩に当たる、中学3年の「駒井萌菜美」とともにエイリアン対策活動を再開することになった。エイリアンの嫌いな大谷ゆりは、前作同様、カッコ悪いキャラクターのままであり、エイリアンの太陽光線反射攻撃の直撃を受けたり、敵エイリアンに捕まったときは捕まったまま、なすすべ無しの状態で助けられるといった状態であった。元対策係らしく、捕まった他の人を脱出させるためにエイリアンに抵抗する、というようなカッコいいシチュエーションなどは見られなかった。 
 物語最後のクライマックスである、くみの危機に際しても、助けに行ったものの、先輩である、萌菜美の活躍が目立って、ゆり自身がカッコよく事態を収拾するまでには至らなかった。続編では多少はマシになったか、と思われたゆりであったが、結局、最終回である第5話に至ってもカッコ悪いままであった。筆者は驚きを越えて、奇妙な脱力感すら覚えると同時に、最後までカッコ悪いまま終わる展開は、マンガの世界なのに、妙に現実的な感じがした。ただ、『エミュ』でもゆりは、前作同様、カッコ悪いながらも自分にできる限りの精一杯さを全身で表現しているような気がする。やはりこれは前作から続く「挫折の美学」であったのか?。

○「続編」それとも「番外編」?
 『エミュ』はストーリー内容から見れば、『A9』の主役三人が中学校に進学した後の話であるから、『A9』の続編だといえる。しかし、『エミュ』という作品の細部を見れば、前作との関連は幾分希薄な感じがする。その理由は、単に前作終了から三年の間に、作者の絵柄が微妙に変化したから、というだけのものではなさそうだ。前作ストーリーの最後にも、中学進学間もない主
役たちの姿が見られたが、それから長い時間が経っていないはずの『エミュ』に登場する主役三人のキャラクターデザインは、前作最後のものを踏襲していながら、大幅に違う、という印象であった。学校の制服は、前作ラストに数コマ登場したもの以外にもう一つ違うデザインのものが混在し、三人の身長差、特にゆりとくみの差が、前作よりも縮まってきている。ストーリー展開も、地球人以前にボウグと共生した「旧世代」エイリアンの登場や、前作で強烈なインパクトを与えたエイリアン「イエローナイフ」が集団出現するなど、前作以上に唐突で急速な展開を見せ、それらは首をかしげたくなるようであった。これは『エミュ』が前作『A9』の続編という形を取
っているが、実は『A9』のキャラクター並びに世界観を用いた”新作”として仕切り直された作品ではないのか、という印象が強い。また、前作でボウグと融合したくみについての、肉体の変化に伴う問題とその解決から、くみ、かすみ、久川先生がゆりの許を去ってゆく、というシチュエーションへと続く『エミュ』ラストの展開は、前作『A9』最終エピソードの候補の一つであったものが復活したというような感じがする。『エミュ』は前作『A9』の続編であるが、『エミュ』へと連なる、前作『A9』の世界は、実は、マンガ作品として発表された”作品版”『A9』の世界ではなく、一見、作品版と同じように見えるが、中身はそれと違っている世界であり、作品版のストーリー展開において、ある種の可能性によって、作品版から分岐して別れた方の物語、SF的に言えば、作品版『A9』の世界に対する「平行世界」での物語であったとも感じさせる雰囲気が『エミュ』作品中に漂っていると思われる。発表までの経緯から見
ると、一種の宣伝的要素も含まれているようにみえるが、『エミュ』は、『A9』の続編であると同時に番外編であり、もう一つの『エイリアン9』でもある、という見方もできるような感じがする。『エミュ』と『A9』を対比してみて、『エミュ』に漂う、続編のようで続編でないイメージは、富沢が、『A9』作者の立場を離れて、読者の立場で『A9』世界を再構築した所から来ているのではないのかと推測される。見方を変えれば、『A9』の魅力に潜む偽史的想像力というものを改めて考えさせられるものであるといえるだろう。(*2)作品タイトルの”エミュレイターズ(emulators)”には、「競争者」あるいは「対抗者」の意味を持つが、この『エイリアン9~エミュレイ
ターズ~』は作品版『エイリアン9』に対する「競争者」や「対抗者」なのだろうか。

○読者に受け継がれる『A9』世界
 2002年12月発売の『チャンピオンRED』・2003年2月号において、『エミュ』最終回が掲載され、全5話のストーリーは完結した。『エミュ』は『A9』の物語中に発生した可能性の中より生まれた「平行世界」を描く、番外編的続編の性格を持っているように感じられ、それは一度完結した物語を仕切り直して、再び語るための”対抗者”であるような印象を読者に与えている。これはもしかすると、”作品版”『A9』の作者である富沢ひとしが、作者自身の手を離れた、『A9』世界を、今度はを『A9』の一読者として、『A9』世界を受け継いだのだろうかとも思われるのである。『エミュ』最終回の、くみ、かすみ、久川先生の旅立ちは、我々ファン達の、彼らが受け
継いだ『A9』世界への旅立ちであるのかもしれない。そして、ファン達が自分自身の『A9』世界の旅を一段落させたとき、ファン達の各自の脳裏に、くみたち三人がゆりの前に再び姿を見せるのかもしれない。『エミュ』最終回でゆりが言った「本当にありがとう」は、我々『A9』ファンから富沢ひとしへの感謝であると同時に、富沢ひとしの、『A9』ファンに対する感謝の言葉でもあるだろう。また、それは富沢ひとし自身の、『A9』という作品に対しての感謝の意であるのかもしれない。

                                                (文中敬称略)


*1:両方とも 『エイリアン9‐エミュレイターズ‐』単行本に収録
*2 :『エミュ』単行本の発売と同時に、前作『A9』ヤングチャンピオン・コミックス版全三巻を一冊にまとめた、 『エイリアン9‐コンプリート‐』が発売された。『コンプリート』には、書き下ろしの番外編が収められていたが、『ヤングチャンピオン』三巻最後の架空子役のコメントは収録されなかった。また、立食パーティーのイメージ画を描いた表紙カバーも、YC番の白を基調とした表紙とは大幅に印象が違っている。『ヤングチャンピオン』版の『A9』世界が”作品版”であるとした場合、『コンプリート』もまた、”作品版”とは、物語中の目に付かない所で分岐した、もう一つの『A9』であるかのような印象がする。  

 
作品:
     『エイリアン9‐エミュレイターズ‐』  2003年6月 秋田書店
     『エイリアン9‐コンプリート‐』(三巻本を一冊にまとめて、新ページを追加) 
                       2003年6月 秋田書店
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by konlon | 2008-06-23 00:43 | マンガ