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by konlon

ドキュメント・電脳メガネ その3

 以下の文章は、前回同様、電脳技術ライターの大津丈滋による、幼年向け電脳メガネに関する記事である。内容は、個人情報保護の範囲内でメガマス社開発・生産のIF009(P)に関する状況をまとめてみたものである。
  (磯光雄原作『電脳コイル』より。この文章ははすべてフィクションです。)



Meg-IF009(P)・開発とシステム
         
                  大津丈滋

 メガマス社開発の幼年向け電脳メガネ・Meg-IF009には、正式な製造・販売が行われる以前に製造された先行量産モデルが12セット存在する。災害や事件などの危険から子供を守ることを目的に、教育ソフトのプログラマであった立野孝夫とメガマス社所属の幼児向け部門担当技術者の田沢均が共同で開発した。開発完了直後の2025年4月に、一刻も早い実用化を目指すため正式な生産の決定を待たず12セット分の製品を先行生産し、立野と田沢の呼びかけに応じた金沢市および大黒市内のメガマス社員、小児医療機関、保育所、児童相談所などに完成品を配布した。最大の特徴は、セキュリティセンターを活用した緊急危険感知システムを標準搭載していることであり、非常時の際に着用者の現状データをセキュリティセンターに転送して、警察、消防、病院などの各機関に即時連絡することで、迅速かつ的確な救命対処を可能にしている。先行量産モデルの緊急危険感知システムは、早くも同2025年5月の半ばに発生した飛行機事故において、その効果が実証されることとなった。乗客のひとりが使用していた、先行量産モデルの危険感知システムによって、最適な救助プランの作成が可能となり、機体の海上不時着および大破にも拘らず、乗員乗客の9割という、当初予想されていた以上の人名が救助されたのである。緊急危険感知システムが、多数の乗員と乗客の命を救ったことを受けて、このメガネの正式な生産が決定し、Meg-IF009 の正式型番が付けられた。正式生産モデルのMeg-IF009は、高い整備製と信頼性から発売当初より人気を集め、2030年までに数回のマイナーチェンジが行われ、現在は改良モデルとして、ブロック30仕様が生産されている。先行量産モデルは、立野と田沢による非公認独自プロジェクトのため、正式な品番は存在しないが、便宜上Meg-IF009(P)あるいはMeg-IF009ブロック-10(マイナステン)の呼称が非公式に使われることもある。
 先行量産モデルであるMeg-IF009(P)は、後の正式量産モデルと同一の材質が使われ、OSやアプリケーション、緊急危険感知システムも同一のものが搭載されている。だが、先行量産モデル12セット分の危険感知システムで使われている連絡用信号は、システムの確実な稼動を確認するために、先行量産モデル用として、新規に作られた専用の通信回線を通している。セキュリティセンター内のユーザー登録サーバも、正式量産モデルとは別のコンピュータに振り当てられている。これらの違いは、緊急危険感知システムの初期不良を確実に発見・処理することを目的とした、実用テストとしての意味合いも含まれていると考えられる。
先行量産モデルの運用より得られたデータにより、緊急危険感知システムに改良が加えられ、セキュリティセンター内に正式モデル専用のサーバ用コンピュータが設置された。2026年1月に正式量産モデルが販売された後も、先行量産モデル用の通信回線とサーバは、正式モデルとは別に継続して使われていたが、Meg-IF009正式モデルの普及に伴い、正式モデル用の回線・サーバ登録への移行が順次行われ、2029年には、稼動するすべての先行量産モデルで使用されていた緊急危険感知システム用信号は、正式モデルで使用している正規の通信回線に通され、ユーザー登録サーバも正式モデル用と同一のものになっている。
 IF009シリーズの緊急危険感知システムは、着用者の遭遇する状況によって、1~5間でのレベルが設定されているが、正式用の通信回線・サーバ登録へ移行するまでのIF009(P)のユーザーが遭遇した状況の中で、生命の危険度が最も高いレベル5の信号が発信された回数はごく少数に過ぎず、2025年と2026年に集中して発信されている。2025年の飛行機事故時に発信された危険レベルは4で、完全移行までの、このレベルの発信は10回にも満たない。レベル4の数少ない一例を挙げると、2027年5月に金沢市内で発生した火災事故の際、家屋内に取り残されたユーザーから発信されたことが記録されている。このメガネ着用者も緊急危険感知システムによって一命を取り留めている。確認される記録をみる限り、危険度の高いレベル4と5の信号が発信された状況下において、ユーザーが死亡あるいは甚大な被害を受けた事例はみられないことは、立野と田沢が目指した危険感知システムの完成度が非常に高かったことを示しているといえる。

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 TVアニメーション『電脳コイル』内のアイテム、電脳メガネについて、幼年向けモデルがあればこうなるのではないのだろうかと物語世界の住人が書いた雑誌記事のイメージで想像してみました。テレビで現れるアイテムの裏には、何かドラマが隠されているであろうと考えれば考えるほど楽しくなってくるのは『コイル』で提示される「新感覚の未来生活」が持つ魅力なのでしょう。

追記:別ブログ「COOL館通信」にもほぼ同内容の記事をアップしてありますので、コメント
等が送りにくいときはそちらをご利用ください。
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by konlon | 2008-06-08 19:15 | アニメーション