パーソナル文化研究所・空琉館の情報誌的ウエブログです。


by konlon

ドキュメント・電脳メガネ その2

 電脳技術ライターをやっている大津丈滋だ。ある日、僕の友人Mがくれた電脳メガネは、幼年向けメガネの先行量産モデルであった。このモデルの実態を確かめるため、M君と金沢・大黒市へ取材に行った。取材の結果、実に貴重な情報を得ることができ、実りある収穫であった。
 以下の記事は、僕が入手した資料をもとにして書いた、幼年向け電脳メガネに関する記事である。拙文であるがどうぞご覧頂きたい。
(磯光雄原作『電脳コイル』より。以下の文はすべてフィクションです。)



Meg-IF009(P)
             大津丈滋

 「電脳メガネ」がウェアラブル・コンピュータとして成功を収めた最大の理由として、個人の行動を効率よく手助けしてくれる頭部装着型の端末デバイスを、メガネという形式で肉体と一体化させることを実現したからに他ならない。そしてそれは、ユーザーとなる人々の年齢層に合わせた仕様の変更を容易にして、各世代の人々に適したコンピュータ環境の構築を始めて可能にした。幼年層への電脳メガネの普及は、意外と早く、メガネの登場からわずか数年で殆どの都市圏に普及した。メガネを介したヴァーチャル映像を利用した幼児教育用ソフトの導入により、日常生活の中での学習を可能にしたことや、危険感知センサおよびデータベースとリンクした位置確認システムなど、防犯・防災への対策が強化されたことが、都市圏での、幼年層へのメガネを普及を促進させた。電脳メガネ最大手のメガマス社をはじめ、各種メーカーが幼年向けモデルの開発・生産を行っているが、メガネ本体の多くは、一般向けメガネのパーツを流用した小型サイズ版が主流であり、一般用のグレードダウンという性格を持っていた。教育用ソフトには、優れた内容のものが多数開発されていたが、危険感知や位置確認などの搭載アプリケーションは一般普及型の一部改定バージョンとして、スペックダウンされたものが導入されていた。驚くべきことに、ソフトウェアからハードウェアまで、完全な幼年層専用モデルの開発は一部のプランのみであった。2024年初頭、幼年向けの教育用ソフトを開発していた立野孝夫は、完全な幼年層を対象とした、電脳メガネの新規開発を構想した。搭載ソフトウェアは、教育用だけでなく、セキュリティ面でも幼年向け専用のアプリケーションを導入する。緊急連絡の送受信を優先させるなど、ユーザーとその家族、各種公共機関の間での通信機能の強化。メガネの形状や素材などの、フレームからレンズに至るまで安全性を考慮した設計であり、完全に幼児層での使用を目的とした開発構想であった。立野は、自身の構想を当時メガマス社の幼年向けモデル生産を担当していた田沢均に提案した。2021年に地方都市の田辺市で起こった台風で、当時4歳の親類を亡くしていた田沢は、子供を災害や事故から守るためのツールとしての、電脳メガネの開発は必要と考えていた。田沢は立野の提案に合意し、幼年向けモデルの開発を自主開発することに決めた。強度と柔軟性を備えた複合素材をフレームに用い、レンズは、衝撃に強い高伝導素材を使用。災害・事故に対応した、衝撃に強い構造となっている。搭載ソフトウェアは、立野が開発した、幼児教育用としては好評の『GNNGNN』(グングン)最新バージョンの他、イーストテクノ社開発の危険感知システムおよびGPS対応型位置確認システムをベースにした幼年層対応型セキュリティソフトを導入した。イーストテクノ社のシステムは、NOIR-SD(旧コイルス社系列会社)開発の軍用捜索・救難システムを一部改良したシステムであり、危険な状況下での人命救助を的確に行うことを目的としている。一説には電脳メガネに搭載されている”隠し機能”を危険のない程度に限定再現したものといわれている。新開発のセキュリティシステムは、イーストテクノ社の危険状況に対する感知・監視機能を、メインユーザーである幼児の行動パターンに合わせて再構築している。最大の特徴として、ユーザーの置かれている非常事態を、メガネがユーザーに代わって自動連絡する点が挙げられる。ユーザーが危険な状況に入ると、ユーザーの状況に対応した危険信号をセキュリティセンター内コンピュータに送信する。セキュリティセンターは、受信した信号の種類にあわせてユーザーに最適な対策が行われるよう消防や警察、医療などの各機関に連絡する。このシステムにより、ユーザーの非常事態に対して、リアルタイムで状況を把握し、迅速な対応を取ることが可能になる。セキュリティセンターとのプログラム調整やメガネの構造強化など、多くの難点を抱えながらも、立野と田沢はこの高度なシステムを備えた電脳メガネの開発を、設計から試作品3セットの完成までわずか4ヶ月の期間で達成したのであった。試作品を用いた、信号の感度や状況報告の信頼性などの各種テストをメガマス系の病院や育児施設で行った結果、修正を要する箇所が若干見受けられたが、良好な成果を得ることができた。テストの結果、予想以上の高性能を見せたため、田沢は、メガマス本社に生産を申請したが、新規開発部分の多いこのメガネとシステムに対して、首脳部は難色を示した。会社の安定経営を重視していた当時のメガマスにとって、完全な幼年向けメガネの新規開発はリスクの付きまとう、まったくの冒険であった。メガマスのこうした態度に対して、一人でも多くの子供たちを救いたいと願っていた田沢は、メガマス社の正式な生産決定を待たずに、量産モデルに準じた仕様の製品を自主生産することにした。田沢はメガマスの幼年向け部門や生産工場を説得し、12セットの先行量産モデルを生産した。立野と田沢は金沢市や大黒市内のメガマス社内とメガマス系列の教育・医療関連機関の協力を得て、完成した先行量産モデルを配布した。主な配布先はメガマス社員、小児医療機関、保育所、児童相談所であり、金沢と大黒市を中心に使用が開始された。使用開始後約一月半が経過したとき、メガネのセキュリティシステムの効果を証明する事故が発生した。北陸から関西まで向かう航空便が飛行中にエンジン爆発を起こし、海上に不時着した。だが、機体が大破するという事態にも拘らず、乗客乗員の9割が生存し救助された。当時4歳の乗客がこの先行量産型メガネのユーザーであり、最初のエンジン爆発の際にこのメガネから危険信号が発せられた。セキュリティセンターに送られた状況から、パイロットに対する海上への飛行指示が出され、続いて救助隊への待機命令が下された。危険信号は不時着後も発信され、ユーザーを含めた生存者の迅速な発見・救助を可能にした。立野と田沢が開発した新開発のメガネが、ユーザーの子供ばかりでなく多くの人々の命をも救ったのである。このことを知ったメガマス首脳部は、メガネのセキュリティシステムの有用性を認め、立野と田沢が開発したこの幼年向けモデルの量産を正式に決定した。Meg-IF009の正式ナンバーが付けられたこのモデルは、高い整備製と信頼性から、ユーザーの人気を集め、幼年向けメガネを代表する製品として現在も改良型が生産されている。
 先行量産モデルには正式な品番は存在しないが、現行のMeg-IF009に準じる仕様であることから便宜上Meg-IF009(P)の非公式ナンバーで呼ぶこともある。 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 TVアニメ『電脳コイル』に登場する「電脳メガネ」の開発史を想像してみました。『コイル』世界の電脳アイテムについて、電脳関連のライターが書いた記事、という形式にしてみました。アイテム一つでもこれほどの記事が書ける『コイル』の世界観は魅力豊かなものであると実感させられました。

追記:別ブログ「COOL館通信」にも同内容の記事をアップしてありますので、コメント等が送りにくいときはそちらをご利用ください。
[PR]
by konlon | 2008-05-24 23:19 | アニメーション