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by konlon

『どんぐりくん』

『どんぐりくん』 
 ―子猫の学校生活―

○子猫が主役
 須藤真澄とその飼い猫・ゆずとの生活をコメディ調で描いた作品『ゆず』の続編として、1996年に『ゆずとまま』が発売された。その巻頭には、「どんぐりくん」というタイトルの描き下ろしカラー短編が発表された。飼い猫のゆずが、どんぐりがくえんという秘密の学校に通っているという話で、そこでは、ゆずは二足歩行し、白猫、三毛猫、青猫、白黒猫らのクラスメート達と授業に励んでいる姿が描かれていた。その後、猫のキャラクターを専門に扱った雑誌『にゃお』1996年6~11月号(11月号で休刊)に『ゆずとまま』巻頭の短編を再構成した作品「どんぐりくん」が連載され、『まんがくらぶ』96年8月号に、当時須藤が当誌に連載していた「ごきんじょ冒険隊」の休載穴埋めとして、1話と2話が掲載された。『にゃお』休刊後「どんぐりくん」は『まんがくらぶ』1997年1月号より新規に連載が開始された。1回につき4ページの短編であるが、子猫たちのキャラクターが生み出す暖かさと優しさが好評となり、2007年10月号まで続くロングラン作品となった。(『にゃお』連載分全6回、『まんくら』連載分全127回、『まんくら』2006年8月号内ミニ冊子掲載分全1回、猫コミックアンソロジー本・『猫のかんづめ』掲載分全1回。総計135回。全て竹書房刊)
『にゃお』&『まんがくらぶ』版「どんぐりくん」(以後「どんぐりくん」)の世界は基本的に猫の擬人化キャラクターのみで構成されている。(*)どんぐり学園1年「ど組」の児童であるトラ猫の「ゆず」、白猫の「こめ」、三毛猫の「みそ」、青猫の「にら」、白黒猫の「のり」の5匹を主役に、どんぐり学園での楽しく愉快で、少しおとぼけの学校生活を描いている。また、ゆず達5匹の他に、1年「ど」組の担任・くぬぎ先生や校医のおじさん、「ラジオせんせい」(夏休みのラジオ体操で手本を見せているので)こと町内会長、海外から来たトーストくんなどといった多彩なキャラクターが多数登場し、作品世界に広がりを持たせている。
 須藤真澄とゆずとの日常を描いた『ゆず』シリーズとは違って、猫のキャラクターのみで構成された『どんぐりくん』は、擬人化された子猫達が織り成す詩的で感情豊かな日常が描かれていて、そこからは暖かさと懐かしさが呼び起こされる。須藤による、猫キャラクターは、単純なデザインでありながら、毛皮の色合いと体温を感じさせ、見ていて楽しくなりそうなキャラクターである。特にゆずとその仲間達が「どんぐり5(ふぁいぶ)」を名乗って秘密基地遊びをしている所は、生き生きとしていて、非常に印象的であった。また、年をとった猫のキャラクターには、須藤先生得意の老人描写が応用されている所も注目される。子猫達が”猫”のキャラクターとして、自分達のありのままを行動や態度の中に素直に表現している所は、動物としての、”猫”の純真さが感じられるようであり、日常と幻想がマイルドに混ざりあった猫ファンタジーマンガの傑作といえるであろう。

○どんぐり学園
「どんぐりくん」の舞台はどんぐり学園とその周辺であるため、ストーリーは学校関連のものがメインになっている。習字、作文、算数、児童英語といった授業関連の話や、運動会、学芸会、遠足などの学校行事の話の他、三角ベースやままごと遊び、秘密基地等の、学校内外での遊びについての話が描かれている。学校を舞台にした本作では、子供の学校生活がシンプルな猫のキャラクターを使って感情豊かに描かれ、日常に潜む小さな感動が柔和で温かみのあるイメージとなって、ストーリーに余韻を与えている。また、ゆず達5匹の台詞を吹出しの中に収めず、ナレーションのように画面に直接表示する構成は、作品に詩的な趣きを演出している。

○猫のキャラに対するこだわり
「どんぐりくん」の世界は猫のキャラクターによって構成されているので、作品の各所に猫の性質や猫に関連する事項が見られる。驚くと尻尾が膨らんだり、乾布摩擦で毛皮の模様が乱れたり、小鳥を見ると捕まえたくなる衝動に駆られたりするなどの、猫の性質がストーリーに取り込まれている。給食は魚がまるごと出され、缶詰はキャットフードになっている。遠足でまむし狩りに行き、くぬぎ先生はマタタビに反応し、学校のトイレは、猫用の砂の敷き詰められた形式になっている事などのように、単なる擬人化ではない、”猫”のキャラクターというものが強調されている。これらの描写は、猫キャラクターは作品の重要な要素であり、擬人化されていても、あくまで猫である、という作者の猫に対するこだわりが窺われる。


作品:
『どんぐりくん』 1巻1999年7月、竹書房
          2巻2002年5月、竹書房
          3巻2005年7月、竹書房
          4巻2007年11月、竹書房 


*:
『ゆずとまま』巻頭の短編では、ゆずは須藤の飼い猫であり、須藤の家を抜け出して学校に通うという設定であったが、『にゃお』『まんくら』連載版「どんぐりくん」では、ゆず達がいる世界は擬人化された猫が住む世界であり、ゆず達子猫にはそれぞれの家庭が存在する設定になっている。よって、連載版「どんぐりくん」では、ゆずの母親は猫のキャラクターとして描かれている。(単行本2巻、4巻。ただし顔は見せていない。)
また、須藤は96年より絵本雑誌『ねーねー』(主婦と生活社)においても、「どんぐりがくえん」というタイトルで、ゆずをモデルにしたキャラクターの登場する低年齢層向けCG画短編を発表している。
                                                                                                            (文中敬称略)
by konlon | 2008-02-22 12:55 | マンガ