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by konlon

「ゼロ戦」の記憶


 '60年代半ばに活動していたグループサウンズのひとつ、「ザ・フィンガーズ」の曲に「ゼロ戦」というものがある。現在出回っている、当曲を収録したCDの解説などを参照すると、タイトルの「ゼロ戦」とは言うまでもなく、かのアジア太平洋戦争を戦った、旧日本海軍の戦闘機「三菱零式艦上戦闘機」こと「零戦」であるといっていいだろう。零戦のイメージソングとして、日本を象徴する航空機・零戦の栄光と悲哀がエレキの演奏に込められたインストゥルメンタル(ボーカル無し)曲になっている。60年代当時において、大空を舞う航空機のイメージを、ロックという形で表現したという点で、後にみられるような、飛行機とロックとの組み合わせを先取りしていたような印象を受け、ロックによるエアロ・ダンシングイメージ表現の先駆を今に伝える秀作であろう。作曲はフィンガーズの主要メンバーであった高橋信之氏であり、あの高橋ユキヒロ氏の兄上に当たる人物であることも興味深い。
 零戦は優秀な性能をもってアジア太平洋戦争に登場し、日本の工業力の限界により衰退していったことにより、時の人々に鮮烈な印象を与えた。その鮮烈さによって、戦後の、高度経済成長を迎えるもまだ前大戦の空気がいくらか鮮明に残っていた'50~'60年代において、零戦は映画や少年向け雑誌の記事、プラスチックモデル等のメディアやグッズ類を通して、日本が体験した総力戦としての、世界大戦の記憶を伝えていった。国民生活が安定から向上へと向かい、昭和元禄と呼ばれるようになった、そして'60年代後半においても、「ゼロ戦」の言葉は、薄らぎつつゆく戦争の記憶を鮮烈に思い出させるキーワードであったといえるだろう。今思えば、「ゼロ戦」の、哀愁を秘めたそのメロディは、前大戦の日本を象徴する"零戦"を鍵として呼び起こされる、戦争の記憶というものを通して、高度経済成長時代の中での、日本の行方というものを自他共に問いかけていたのではないのだろうか。

ゼロ戦/ザ・フィンガーズ:CD 『カルトGSコンプリート・シングルズ』収録 
                2000年、テイチク

                CD 『TOKYOエレキ合戦』収録 2005年、テイチク
                              (*現在入手しやすいものです)

追記:
上記とは別の、今はもう発売されていないカルトGSのオムニバスで始めて聴いて、不思議な印象を抱いた覚えがあります。聴いただけで飛行機の離陸、飛行、空中戦をイメージできる曲であり、ロックを意識した演奏でありながら、どこか日本を感じさせる所は、なぜか「零戦」のイメージを容易に連想させます。
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by konlon | 2005-08-11 16:08 | 音楽